弁護士 豊崎寿昌

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司法積極主義/消極主義

2005年10月25日

司法積極主義/消極主義

台湾の元患者の請求認める、韓国は棄却・ハンセン病訴訟
日本の植民地時代に開設された韓国・小鹿島(ソロクト)更生園と台湾・楽生院の両ハンセン病療養所の入所者や遺族計142人が、ハンセン病補償法に基づく補償請求を厚生労働相が棄却したのは違法として、処分取り消しを求めた二つの訴訟の判決が25日、東京地裁であった。同地裁は、台湾の入所者らの請求を認めて決定を取り消した。一方、韓国の入所者らの請求は棄却した。

日経新聞夕刊の解説文では、地裁の別々の民事部が下した結論が逆の判決に対し、患者側勝訴の台湾判決は「立法趣旨を重視」し、国側勝訴の韓国判決は「法案審議の経過を細かく分析」したものと分析し、韓国判決について「裁判官が違う以上、判決内容が変わるのは、ある意味で司法の健全性を示している」としながらも、「判決が国会審議にこだわる必要があったのか、やや疑問も残る」と論評しています。

しかし、私は、この二つの判決の根っこには、裁判所に流れる「司法積極主義」と「司法消極主義」の二つの考え方が端的に表れたものだと思います。

この二つの考え方は、裁判所が違憲判断を積極的にするかという場面でよく対立します。司法積極主義は、立法の欠陥や不作為に対し、裁判所に与えられた違憲審査権を積極的に行使して不正義をただしていこうという考え方です。他方、消極主義は、国民の投票によって選ばれたわけではない司法権が、立法権に対しあまり干渉しすぎるのは民主主義の原則に反するという考えの下、違憲審査権の行使をできるだけ避けようという考え方です。

戦後の日本の裁判所は基本的に司法消極主義でした。ですから、今回の韓国訴訟の判決を担当した裁判体は、実はこの司法消極主義という発想が先にあって、国会審議の経過云々というのは、後からそれを正当化するために持ちだしただけの理屈のような気がします。

しかし、ハンセン病患者に対する施策については、2001年5月に熊本地裁で、立法の不作為を違憲と断じた判決が出されたことが、今回の立法のきっかけになっており、要はあまりの不正義状態に、司法権が重い腰を上げて「積極主義」に打って出たことにより、事態が打開されてきたという側面があります。そうした司法の役割に対し、今回の韓国訴訟担当の裁判官たちがどこまで自覚していたのか、私はかなり疑問です。

日時 :
2005年10月25日 23:46
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弁護士 豊崎 寿昌

(とよさき としあき)

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  • 東京弁護士会所属
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