弁護士 豊崎寿昌

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園尾部長の魂

2006年04月24日

園尾部長の魂

変なタイトルですが。

最近は以前に比べて破産申立に行く件数も減りつつありますが、経済的に底辺にいる方々の数が減ったわけでは決してなく、生活保護や年金でかつかつの暮らしを立てている人の破産申立を行うことは未だ結構あります(この辺は、最近政局ともなっている「格差」論につながる現実でしょうかね)。

生活保護や年金生活者ですから、当然蓄えもなく、弁護士費用も法律扶助協会立て替えですが、一つだけ困るのは、免責調査型で管財事件となってしまう場合の予納金の問題です。東京地裁では、破産に至る原因について浪費等の免責不許可事由にあたる場合、破産管財人による調査を経ることを原則としていますが、この場合、管財人をつけない破産手続き(同時廃止)より、20万円ほど予納金が多くかかります(この20万円は、そのまま管財人の報酬になります)。

かつては管財事件の予納金は、最低50万円でしたので、これに比べたら20万円に引き下げられたことは相当リーズナブルになったのですが、生活に全く余裕がなく、援助してくれる身よりもない方には、この20万円すら用意できない方もいます。すると、お金がないために破産すらできないという笑えない冗談のような状態に陥ってしまうわけです。

数年前に東京地裁破産部の運用の大改革を断行して、上記のような管財事件の運用を始めた破産部部長だった園尾裁判官は、「東京地裁破産部の管轄は『日本』です」などと豪語して、東京以外の住所地でも事実上受け付けてしまう運用を始めたりなど、およそ官僚主義とは無縁なフレキシブルな実践をしましたが、この「20万円用意できない事件」も、「裁判所が頭を下げて、管財人を見つけるので、そういう事件でも気にせず破産を申し立ててかまわない」とおっしゃっていました。

園尾部長の意図は、裁判所が堅苦しい運用を行っていては、多重債務者の救済に裁判所はいつまでたっても全く役に立たないという危機感があったものと思われます。ま、20万円すら用意できない管財事件を引き受けさせられる管財人にとっては痛し痒しですが、自分がそのような事件を申し立てることがある可能性を思うと、裁判所からの依頼を総簡単には断れないものです。私も10万円しか用意できないという管財事件の管財人をやったことがあります。

さて、前置きが長くなりましたが、本日、年金生活者で、月1万円しか積み立てられないという方の破産申立の件で、地裁民事20部の裁判官に即日面接に行ってきました。私の手元に事件をとどめて8ヶ月、8万円は貯めましたが、20万円に達するには後1年待たなければならないので、さすがにそこまで引き延ばすことは債権者の手前もどうかと思い、債権者集会の日までにはもう2万円ほど貯まる計算ですので、10万円の予納金で管財事件とすることをお願いしたわけです。

ところが、予想以上に裁判官に難色を示されました。最終的には拝み倒すような形で押し切りましたが、ちょっと予想外。2年ほど前なら、事情を説明すれば二つ返事で裁判所が引き取ってくれた記憶があります。

本年4月から破産部に転任になった新任裁判官なので慎重な姿勢になったのかも知れませんが、このような事件で難色を示されると、私のように結構面の皮が厚くなっている中堅弁護士はともかく、若手弁護士は萎縮します。弁護士が萎縮するとどうなるかというと、破産申立をすべき事案で破産申立を躊躇するようになります。すると、破産にすべき事案で、相談を受けた弁護士が無理に任意整理等の手段を執ってしまうか、あるいは受任自体を断ってしまう可能性が大きくなります。最終的にどうなるか。経済的に底辺で、もっとも破産制度による救済を必要としている人が見捨てられることになりかねません。

園尾部長が去って数年、東京地裁破産部に、再び官僚主義の影が見えているとしたら、大変残念です。

日時 :
2006年04月24日 23:48
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(とよさき としあき)

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  • 東京弁護士会所属
  • 由岐・豊崎・榎本法律事務所(東京・八丁堀1丁目)パートナー

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