弁護士 豊崎寿昌

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解散権

2005年08月09日

解散権

nishizakitwilight.jpg昨日まで、今年最後の館山行で世間から隔絶された世界にいましたが、その間に郵政法案は否決、衆議院は解散されていたようで。

さて、既にけっこう議論されている「参議院で法案が否決されたから、首相が衆議院を解散できるの?」という論点は、実は憲法論上も重大な論点です。

実は、憲法では、「内閣(総理大臣)は、衆議院を解散できる」と正面から定めていません。憲法上、衆議院の解散に言及されているのは以下の2カ所です。

日本国憲法第7条  天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
 三  衆議院を解散すること。

同第69条 内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。

この二つの条文をどう読むか、かつては結構争われました。

要するに、内閣が衆議院を解散できるのは、憲法69条の場合=内閣不信任案の可決等の場合に限られるかどうか、です。

限定説は、憲法7条は、天皇の行う国事行為の種類を定めただけで、7条を根拠に内閣が解散権を持つわけではない。ほかに衆議院の解散について定めているのは69条だけだから、内閣が衆議院を解散できるのは69条の場合に限られる、と考えます。

一方で、非限定説は、憲法7条は、天皇の国事行為を定めるとともに、内閣が「助言と承認」により、行える事項を定めている。だから69条の場合でなくとも、内閣は憲法7条を根拠に、任意に衆議院を解散できる、と考えます。

この二つの考え方は、その根底に、日本の三権分立をどのような構造のものと考えるか、特に国会と内閣の力関係をどう考えるか、という論者の立場を反映しています。もっとも、政治の実務の世界は、学者の議論をよそに早くから「7条解散」(内閣不信任によらない解散)を実行していましたので、現在では学者の世界もすっかり現実追認で、学会の大勢は非限定説で固まっています。

では、非限定説だから、今回の解散も全く問題がないのか、というと、それはまた別問題ではないかとも思われます。

非限定説も、内閣が、いつでも「思いつきで」衆議院の解散を行えると考えているわけではないでしょう。やはり、内閣不信任に匹敵するような、国政の一大事で国民の信を問うような必要性があることが暗黙の前提であると思われます。内閣が、あまりに恣意的に、たとえば特定の政党、あるいは特定の議員の身分を剥奪するために解散するような事態があるとすれば、それは解散権の濫用と言うべきでしょう。

今回の解散ですが、確かに郵政民営化という、国民の信を問うてもいいようなテーマがあるにはあります。

しかし、衆議院ではこの法案、可決されており、否決されたのは参議院です。衆議院を解散しても、参議院の勢力が変わるわけではありません。

憲法上、参議院で否決された法案を、再度成立させられる「3分の2」の勢力を目指すために、解散するというのなら、それでも筋は通ります。しかし、小泉首相の勝敗ラインは「自公で過半数」だとか。

過半数でいいのなら、現在も自公の郵政法案賛成者は過半数であって、何も選挙で信を問う必然性がありません。ちょっと、この辺のロジックがわたしにはひっかかってなりません。

日時 :
2005年08月09日 22:33
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弁護士 豊崎 寿昌

(とよさき としあき)

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  • 東京弁護士会所属
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