弁護士 豊崎寿昌

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犯罪者の隔離は可能か

2005年01月13日

犯罪者の隔離は可能か

奈良の女児殺害事件の容疑者逮捕から、怒濤のような流れで、どうやら法務省が警察に性犯罪者の個人情報を提供する運用が実現しそうのように伝えられていますね。

マスコミ等では、さらに外国の制度を紹介して、性犯罪者の出所後の居所を地域住民に知らせるように求める意見も出ています。

しかし、すでに指摘されているように、性犯罪者が他の犯罪に比べて明らかに再犯率が高いという統計はありません。それなのに、性犯罪の前科前歴を持つだけで、このような人権の制約が行われるとしたら、法の下の平等に反するおそれがあります。

今、行われている議論は、性犯罪、特に今回の事件がイメージを喚起する種類の犯罪に対する感情的な嫌悪感から感情的な意見に走りすぎの嫌いがありますが、そもそも犯罪者を社会から「隔離」したり、「区別」したりして、自分たちの身を守ろうという発想は、一見合理的に見えますが、実は社会全体としてはコスト的にも到底見合わないものです。

犯罪者を「死刑」にするか、「終身刑」にしない限りは、その犯罪者はいつか必ず刑期を終えて社会に戻ってきます。そうした人たちにレッテルを貼って、自分たちの社会から締め出したつもりになっても、そのような人たちは行き場を失うだけで、結局は国家が面倒をみること=税金をつぎ込むことになりかねません。

今回の事件で教訓にすべきは、(まだ有罪判決が確定していませんので、容疑者を犯人扱いすることは避けるべきですが、仮に報道を前提にするとして)なぜ彼が「野に放たれていたか」ではなくて、なぜ彼が「更生できなかったのか」でしょう。

犯罪者を区別して隔離すればいい、という考え方は、私たちの意識の根っこにある「犯罪者と正常な人間は違う、区別できる」という隠れた差別意識を反映しています。こうした考え方は、下手をすると、パレスチナとイスラエルの「隔離壁」などと同種の過ちに陥りかねません。

日時 :
2005年01月13日 18:21
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業務日誌 > 司法制度・運用に関する意見

弁護士 豊崎 寿昌

(とよさき としあき)

弁護士 豊崎寿昌

  • 東京弁護士会所属
  • 由岐・豊崎・榎本法律事務所(東京・八丁堀1丁目)パートナー

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